
「手術部位とその周辺の皮膚を清潔にすることは、手術時の皮膚消毒の効果をあげ、二次感染の防止の上からも大切なケアである。
1入浴 2清拭 3洗髪 4剃毛 5臍の処置」と川島らが述べているように、有毛部周辺の手術には剃毛が必然だと考えられていた。
一方、米国の疾病防疫センターは「手術野の体毛が邪魔にならなければ、手術前に除毛(剃毛)しない」と報告している。
当院では頭髪内よりアプローチする手術の際、術後の生活に対する配慮から剃毛は行っていない。これまで「患者が剃毛しないことをどう捉えているのか」についての研究はなされていない。
そこで今回アンケートを実施し、患者の意識について調査・分析したのでここに報告する。
剃毛に対する患者の意識を調査する。
剃毛:剃刀・脱毛剤・バリカン・クリッパ・電気クリッパによる剃毛(除毛を含む)
頭髪プレパレーション:頭髪の術前準備
調査期間:2004年11月~2005年1月末日
対 象:頭髪内からのアプローチ手術を受けた21歳から79歳の男女35名
方 法:無記名による質問紙調査
倫理的配慮:対象者に主旨を説明した上で、拒否しても今後の関係性には影響しないことを説明し同意を得た。
アンケート対象者は35名で、男女比率は1:6であった。
各設問の回答は複数可とした。
今回、調査前には剃毛しないことに疑問や不安を持っている患者が多いのではないかと予測していたが、結果的に「剃毛することは、考えていなかった」69%であった。疾病ではないという意識が、剃毛との関連を希薄なものにするのではないかと考える。
当院では手術用手袋の指の部分をカットして利用し、頭髪プレパレーションを行っている(図1)。この方法により、頭髪が邪魔になることもなく、手術操作に支障をきたすこともない。
実施している頭髪プレパレーションは、患者の「剃りたくない」という希望を受け入れるための工夫である(図2)。
また、剃毛が必須であった場合、コンプレックスを解消するための美容手術で、剃毛を許容するか否かは意見が分かれた。「剃る」と回答した患者にも共通点は見出せず、体験や知識などから判断したものと考える。しかし、「なぜ剃るのか?必要性を説明してほしい」との回答もあり、剃毛という行為自体の認識の低さも伺えた。また「剃りたくない」の理由は「術前の髪の状態に戻るのに時間がかかる」が79%を占めた。
頭髪の成長は1日平均0.3ミリで、他人に気づかれない程度になるには、一定の期間が必要となる。これは、周囲に知られたくないという患者の意向に沿わないための結果といえる。「日々の生活が不快になりそう」との回答もあり不揃いな頭髪はストレスとなり、術後の生活にも大きな影響を与えると考えられる。しかし「感染する危険性がある」「傷の治りが遅くなる」「術後の傷を清潔に保つために必要」と回答している患者もおり、剃毛しないことに対し医療者側と患者側の意識の差だけでなく、個人の情報量により差異があることが示唆された。


一般的に、「美容外科では剃毛は行なわれない」と認識している患者が多い。
手術に伴う頭髪剃毛は、精神的負担が大きく、社会復帰期間に影響を与える。
美容外科は、疾患を有する患者への医療とは異なり、審美的な形態改善を目的とした診療科である。そのため「周囲に秘密にしたい」との希望が多く、術後の速やかな社会復帰に対応すべく、今後も創意工夫が必要である。